2012/02/26
過日、ある農家の方とお話ししました。あんまり「風評被害」「風評被害」と力説するものですから、ついつい反発して、「風評被害」などという言葉は「福島産」というブランド価値の破壊を誤魔化すために、国や自治体、マスコミが流布している業界用語である。もっと自分の作物の価値がどれほど原発事故で破壊されたか自覚的になるべきだとお話しました。
そしたら、
「お前みたいに農業やったことの無い人間に何がわかる、何がブランド価値だ。そんなものお前の思いこみだろう」とののしられてしまいました。
そこで、私は賢しらぶって以下のような説明をしました。
「アメリカにフィリップ・コトラーというマーケティング理論の第一人者がいます。コトラー教授が提示したプロダクト・マーケティング理論に製品の三層構造というモデルがあります。
製品を構成する3つのレベルとは
の3つを言います。企業で製品開発をしたり、製品を販売するマネージャークラスの人にとっては、ある意味必須の知識です。
例えば、そこに、ポテトチップの袋がありますね。
ポテトチップ自体は製品の中核ですね。でもこれだけでは他のポテトチップとはなかなか差別化はできないですよね。
そこで、製品のデザイン、ブランド、パッケージング等に趣向を凝らす必要が出てきます。それが製品の実体です。オレンジ色の印象的なパッケージやメーカー名のカルビーというブランド名は製品の実体を構成しています。このポテチはどこで買いました。ああ、ヨークベニマルね。セブンアンドアイの独自ブランドのポテチも売っていましたよね。ずっと価格の安い。なぜカルビーを選びました?いつも買っているから。それにぱっと見て判るから。そうですよね。それがパッケージとブランドの威力ですね。
また、大抵、パッケージには万が一の時のためのお客様コールセンターの電話番号が出ていて、どこ産の芋を使っているのかという問合わせに答えたり、不良品だった場合交換してくれますよね。これも製品の価値を高める方法ですが、これが製品の付随機能です。
それではあなたの作った農作物はどうですか。
中核となる製品はどれだけ汚染されていますか。汚染地以外の作物と比べてどうですか。あなたの作物の11ベクレル/kgと汚染地以外の作物の0.5ベクレル/kgを比べるとどうですか。中核製品自体の価値が毀損され、それを誤魔化すための言葉が「暫定基準値」です。中核製品のレベルでさえ圧倒的に汚染地以外の作物からは劣後しています。
製品の実体はどうですか。原発の頭に「福島」という県名が付いていたために、「福島産」というブランド価値は徹底的に壊されました。安全なのに危険だといわれることが風評被害です。中核製品の価値の劣化を「暫定基準値」でごまかし、安全を宣言して、「中核製品」にのみ着目した言葉が「風評被害」です。この言葉は「製品の実体」であるブランド価値を敢えて無視し、「風評被害」という言葉で製品としての実体、ブランド価値の毀損を隠蔽するための言葉ですよ。
製品の付随機能はどうですか。原発事故前はそんなものは必要なかった。しかし、中核製品と実体製品の価値の毀損を補うためには、作物一つ一つの測定とその測定値が判る仕組みを作らなければならないでしょう。例えばトレーサビリティとか。莫大な余計なコストをかけなければならないということです。
だから、自分の農作物がどれほど破壊的な被害を受けたかをもっと認識する必要があるのです。農地自体の汚染だって本来東電や国が率先して除染しなければならないはずです。そして、その損失をきっちり東電や国へ請求するように農家の方々が団結しないと、未来はありませんよ」。
そうすると、その農家の方は、
「そうなんだよ、判っているんだよ。でも本当に補償の請求は大変なんだよ。一体いつ補償が認められて、いつ金が入ってくるのかわかりゃしないんだ。ずるずる引き延ばされたら、本当ににっちもさっちもいかなくなるんだよ。でも、ま、あんたの話は良くわかった。ちょっと、周りにも話してもっと補償についてやってみるわ。」
コトラー様様です。単なる受け売りではなく、マーケティング理論が会社での実務にどれほど有効かという経験と、それなりに自分で咀嚼し考えた言葉なんですが、なんだか、複雑な思いです。
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