2012/02/19
服従実験とは閉鎖的な環境において、普通の人が、どれほど易々と権威者の指示に従い残虐行為を行うかという、人間の心理状況を実証したものです。この実験を行った心理学者の名前をとり、ミルグラム実験とも呼ばれます。ナチスの大物戦犯アドルフ・アイヒマンが、実は、真摯に「職務」に励む、一介の平凡で小心な公務員だったことから、普通の人間でも一定の条件下で誰でも残虐行為を犯すのか、という疑問が提示され、それに答えるために行われたのが服従実験です。
この実験では教師役が生徒役に問題を出し、間違えると電気ショックを与え、罰の効果を計るものだと教師役には説明されました。しかし、実際には電気ショックは与えられず、生徒役は役者が担当し、電圧が上がるごとに大げさに苦痛の叫びを上げるよう指示されていました。実は、この教師役が真の被験者であり、権威ある実験管理者の指示に従い、どれ位の電圧まで上げるかということを明らかにすることがこの実験の本当の目的でした。
その結果、被験者40人中25人(統計上62.5%)が用意されていた最大ボルト数である450ボルトのスイッチを入れました。電圧の強さは9段階設定されていましたが、7段階目の300ボルトに達する前に実験を中止した者は皆無でした。白衣を着た権威ある者に指示されると、脅迫をされたわけでもないのに、普通の人々が残虐行為を継続するということが実証されました。
今年の4月から中学校で武道が必修科目となるそうです。柔道、剣道、相撲の中から一種目を学校ごとに選んで年間13時間ほど子供たちに教えるそうです。柔道は胴着一着で済むので、選択する中学校は6割に達するそうですが、中学、高校の授業や部活で死亡事故の割合が非常に高いということで指導体制の不備が事故に繋がるのではないのかと危惧されているようです。
先日NHKのクローズアップ現代でもこの問題が取り上げられていました。柔道での死亡事故では、受身の未熟さにより、強打しなくても、急激な頭部の動きで脳に損傷が発生することが原因となることが指摘されていました。そして、この指摘に対して文科省の役人は「新しい知見なのでこれから留意する」などとほざいていましたが、かなり前の文科省が被告となった訴訟で、文科省自身が、この頭部の急激な動きによる脳の損傷について取り上げていることがこの番組で暴露されていました。
武道の必修化は随分前に発表されており、私はてっきり外部の有段者を指導者として招いて、子供たちに教えるのだろうと思っていました。しかし、実際には柔道の経験の無い体育教師に付け焼刃の数日間程度の講習を受けさせ、子供の指導をする学校がほとんどだということでした。そして、未熟な指導による事故の発生が危惧されるが、これに対して文科省は何の対策も行わず、今の体制での必修化を強行しようとしていることを批判し、きちんとした対策を取るよう促がす番組内容でした。政府広報放送局のNHKにしてはまともな報道だったといえるでしょう。
しかし、私は、子供に危険があるがゆえに武道必修化を強行することが、本来の文科省の目的そのものなのだろうと思っています。つまり、教育内容の表向きの理由、子供の発達のためというよりも教師や子供、親の服従を勝ち得ることが、文科省の真の目的だということです。
体育教師は、どんなスポーツ種目であれ、それなりのレベルに達するためには長い鍛錬の時間が必要なことは判っているはずです。数日の講習で黒帯を賜ったとしても、それは誤魔化しに過ぎないことも。
私は剣道と少林寺拳法の有段者です。未熟な者による指導がいかに危険であり無意味なものであるかは多少理解しているつもりです。さらに武道には形があります。その形を体得することによって無駄の無い動きや技の切れが身についてゆきます。しかし、即席の講習を受けた体育教師がどの様にその形を指導できるのでしょうか。中学生ともなれば、小学校の時から市中の道場に通っていた子供もいるでしょう。一発で下手糞と見抜かれるでしょう。そのような恥辱を感じながら生徒に教えなければならない。しかも、下手をすれば子供の命を危険にさらすことになる。
これは、文科省が行っている服従実験の一つなのでしょう。その第一の被験者は間違いなく体育教師です。子供の危険は無視し、自分自身が汚辱にまみれながらも、偽りの黒帯を拝受して文科省という権威に服従するロボットに仕立て上げられる。そして、生徒はサクラの役者などではなく実際に被害を被るかもしれない生身の人間です。体育教師は文科省に服従し、生徒は体育教師に服従する。それでは、生徒の親は武道の授業を拒絶できるでしょうか?
この構造は、原発事故後のフクシマで文科省、教育委員会、学校の対応と同じです。外での活動が制限されるというような劣悪な環境下で子供たちが被る不利益は並大抵のものではありません。放射性物質の直接の影響を、百歩譲って度外視しても、子供の健全な発達に大きな影響を及ぼし、身体的、心理的な問題を頻発させています。又、部活動などが制限されることにより、子供たちは練習不足という実際上の不利益を被っています。地産地消の掛け声のもと汚染食品の摂取が給食により強いられています。他の非汚染地域に比べれば間違いなく劣後した教育環境を生徒に甘受させるという実態は、教師自身が骨身にしみて理解しているはずです。平等な教育を受ける権利を、教師自らが子供たちから奪っていることを痛感しているでしょう。しかし、自らの職域確保のため、さらに慣れ親しんだ権威への服従のためそのような教師としての疑問は表には出てきません。そして、教師はロボットのように文科省に服従し、さらに子供や親に服従を強いています。
教師への締め付け、無意味な膨大な事務作業の増大など多岐にわたって文科省の服従実験は継続されてきたようです。その効果が最も端的に発揮されたのは原発事故後のフクシマです。人は誰でも学校教育を通して、文科省に関りを持たずにはいられません。日本の教育の真髄は、実は服従を植えつけることにあるのかもしれません。
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