原発事故被災者手記
ぽて人の郡山便り

この状態を何と呼べば良いのだろうか。私には「ファシズム」という言葉以外思いつかない

2012/01/30

7.唾棄と放屁の破裂音。ペップキッズこおりやま(PEP Kids Koriyama)

← 前の記事

次の記事 →

昨年11月7日、NHKの全国放送で、郡山市内の幼稚園児の6月までの1年間の体重の増え方を調べたところ、去年の同じ年齢層の4分の1程度にとどまっていたことが分かった、とのニュースが流れました。チェルノブイリ原発事故後、子供への影響として、著しい発育不全が挙げられていることを知っている人々にとってはショッキングなニュースでした。しかし、この調査をした医師は、放射性物質の影響では無いことをたちどころに見破ることのできる天才小児科医でした。当時のNHKのニュースは文字データでも保存できましたので、引用しますと

「幼稚園でも家庭でも外遊びができない状況が続き、ほことから、事故が影響して、体重の増加幅の減少につながった可能性があるということです。菊池医師は「外遊びができずに運動量が減り、食欲がわかなくなって食事の量が減ったり、我慢を強いられる生活にストレスを感じ、成長ホルモンの分泌に変化が起きたりしたのではないか。一時的なものであれば回復すると考えられるが、成長の停滞が長引かないよう、追跡調査を行って対策を講じるべきだ」と指摘しています。」(傍点筆者)

そして、この菊池信太郎が、もちろん天才小児科医としての名に恥じず、「郡山市震災後こどもの心のケアプロジェクトマネージャー」として、郡山市と結託し、肝いりで作ったのが「ペップキッズこおりやま」という外遊びを室内で体験できる施設です。しかも、この施設の土地建物設備は、あの汚染地食品の掃き溜めスーパー、ヨークベニマルが倉庫として所有していたものなのです。ヨークベニマルはその使用していない倉庫を、屋根を引っ剥がし、全面ガラス張りのきらびやかな施設に改造し、真新しいアスファルトを敷き詰めて、郡山市に寄贈したのです。何と、駐車場で毎時1.7マイクロシーベルト、室内は毎時0.1マイクロシーベルトと、郡山市内としては優秀な除染効果を誇っていますが、まあ、効果的な「除染」などアスファルトを敷き直し、屋根を引っぺがすほどの改修をしなければ効果が無いというモデルケースだということです。

この施設では遊びだけで無く300円をとってペップキッチンという料理教室を食育講座と一緒に行います。もちろんその食材はヨークベニマルの提供です。さぞかし、放射能汚染食物についてしっかりと教えていることでしょう。素晴らしいフィランソロピー、企業の地域貢献の鑑と言えるでしょう。もしも、被爆地郡山市とは別の地域で行ったのならば。

仮に子供たちの発育不全が放射性物質による被曝の影響では無いとしても、そもそも、外遊びがためらわれるような環境に子供たちを閉じ込めておくことがまともな大人の対応なのでしょうか。

もちろんそのとおり「大人の対応」です。

郡山市のホームページには郡山市長の原正夫、ヨークベニマル社長大高善興や天才小児科医菊池信太郎がさも子供たちの安全と未来のため、みたいなおべんちゃらと自画自賛を恥ずかしげもなく掲載しています。これら「大人たち」、すなわち税金で食っている市長とそれに連なる役人、地方議員どもは、まさに税金を搾り取るために住民を避難させるわけがありません。地元企業や医者は従業員と顧客から利益を搾り取るために住民に避難されては困ります。従って、子供たちを外遊びもできない環境から避難させるなどと言うことは夢にも思わないようなのです。そして、これは被害を小さく見せかけ補償をケチる東電・国のためには大変ありがたい地元の動きでしょう。

福島県民には「見捨てられた」とか「福島棄民」などという、余りにもぬるい認識を持っている人もいるようですがとんでもないことです。見捨てられたほうがまだましです。絶対に奴ら「大人たち」は見捨てたりしません。しっかりと抱え込んで、税金と企業の利益のため、用済みになるまで骨の髄までしゃぶりつくします。搾り取ります。これからは「除染」に名を借りた、不安定非正規被曝労働者が「福島の復興」を騙りながら、しゃぶられます。見捨てられるのはその後です。まるでアウシュビッツの囚人のように。子供たちはそのための大事な人質です。親達を懐柔するために、東京ドーム24分の1そこそこの、しょぼいながらも東北最大規模の遊戯施設など、「大人たち」が貪る、利益に比べれば安いものです。

ペップキッズこおりやまは昨年のクリスマスの時期にオープンしました。NHK福島や地方ローカル局のテレビもこぞって放送しました。マスゴミという人間の屑どもにふさわしい、希望に満ちた、大変ありがたい施設との欺瞞に満ち溢れたコンセプトで放送されました。地元幼稚園の幼子に「うれし~い」と言わせ、ふて腐れた小学生に「放射能で外で遊べないから良いんじゃない」と言わせ、感極まったお母さんに、涙ながらに「ありがたいことです」と言わせ、そして、これをお涙頂戴の美談として放送する奴らの偽善に心底吐き気を催しました。実家のある札幌の、原発にも放射能汚染にも無関心のおば様がたでさえ、汚染地の食物を給食で提供していること、子供の体重が増えないような環境に子供たちが捨て置かれていると話すと眉をひそめるのに。福島県に在住するテレビ局のくせに、まともな感覚と言うものを一切捨て去っているようです。そして、今でも思い出したように時々ニュース番組で「ありがたいことです」というお母さんの笑顔とともに、放送しています。

夏までは、文部科学省が設定した毎時3.8マイクロシーベルト以下はOKという基準に則り、平然と公園に「先週末測定結果毎時2.5マイクロシーベルト」などと記入した看板を麗々しく掲示し、子供たちはたくさん遊んでおりました。セミ時雨もなく、秋を予感させる虫の声も無い、しーんとした街中の公園は、夏の終わり頃に突然「除染」と称して芝生や表土が剥ぎ取られ、立ち入り禁止となりました。そして6月までの調査でとっくに判っていた子供の体重が増えないという事実が、街中の様々な公園で「除染」が行われている11月に報道され、そりゃ大変とばかりにクリスマスにペップキッズこおりやまが開設されました。

毎時3.8マイクロシーベルトは安全だとの強弁があっさりと反故にされ、しかし、ごく一部の子供たちが利用する屋内遊戯施設があれば大丈夫だとの詭弁に掏りかえられ、利権と金という目的に首尾一貫しているとはいえ、「放射性物質は安全だが危険だ」という余りにも論理矛盾に満ち満ちたこれらのメッセージを子供はどう感じているのでしょうか。

子供を舐めすぎているんじゃないでしょうか?

私には子供がいないので自分の記憶を頼りに書くしかないのですが、小学校3年生にもなれば自分の体が侵襲されることには、かなりの理解力を持っていると思われます。私が、小学校3年のとき骨折の治療の不手際から化骨性筋炎という病気にかかり手術をするかしないかという瀬戸際に追い込まれたことがありました。子供心に手術は大変に恐ろしく痛いものだと恐怖していました。白いカーテンの向こうで親と医師が交わすひそひそ話しの要点は完璧に理解ができました。しかも、「カコツセイキンエン」という言葉を覚え自分で辞書を引いて「化骨性筋炎」だということも知りました。

将来を悲観した高校生の自殺の話がすでに二件耳に入っています。他にもたくさんいるでしょう。復興一色の風潮の影でこのような悲劇は一切報道されません。間違いなく福島では親殺しが増えるでしょう。

すでに福島では家庭内暴力や子供の虐待が増えています。親達は見せかけの日常にしがみつきながら、対処療法的な対応に唯々諾々と従っているようです。見せ掛けの復興という幻想の裏で、ファシズムに連なる「自由からの逃走」という、恐ろしい心理的な問題が浸潤しつつあるように思えてなりません。

Copyright(C) 1995-2012 Survival Network. All rights reserved.