原発事故被災者手記
ぽて人の郡山便り

この状態を何と呼べば良いのだろうか。私には「ファシズム」という言葉以外思いつかない

2011/12/21

3.私自身と身辺に起こっていること

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汚れつちまつた悲しみは
なにのぞむなくねがふなく
汚れつちまつた悲しみは
倦怠(けだい)のうちに死を夢む
なにが悲しいつたつてこれほど悲しいことはない」
中原 中也 山羊の歌 「汚れつちまつた悲しみに……」より

今年の夏は子供たちの一時避難の活動をお手伝いし、大忙しでした。歯が大変痛みましたが歯医者には行かず、ロキソニンという大変よく効く鎮痛剤を薬局で買い求め、これを服用しましたが、2週間以上痛みが続きました。以前は1~2回飲めば痛みは治まったのですが、今年の長患いは異様でした。あっという間に2本の歯がぐらぐらになってしまいました。そして、今月に入り、又痛みましたので、かかりつけの歯医者に電話をしましたら、呼び出し音はするのですが誰も出ません。医院の前に行ってみましたら、張り紙も何も無く、しかし、誰もいません。いつの間にか避難してしまったようなのです。

別の歯医者に行き2本抜歯しました。あと2本抜かなければなりません。早晩総入れ歯になるでしょう。私は今年50歳です。

以前はそんなことは無かったのですが、長い時間読書をすると目がしょぼしょぼするようになりました。めがねが合わなくなったと思っていましたが、札幌に帰省して、3日ほどでくっきりと見えるようになりました。

何も激しい運動をしていないのに朝、腕や胸、ももの筋肉が大変痛むことがあります。

歳のせいでしょうか。

近くにわりと大きな総合病院がありますが医師2名が逃げ出し補充はありません。

私が参加している反貧困活動の役員を務める60歳代の女性2名が最近相次いで乳癌の手術を受けました。先日、その会の会議がありましたがこの話題は全くスルー、何事も無かったように議事は進行しました。私も何も言いませんでした。

単なる偶然で片付く話です。

私はいつも放射性物質のことを考えているわけではありません。しかし、自分や身の回りの出来事がふっと頭に浮かび、自分や妻の死を意識することがあります。それは突然、ぎゅっと心臓を絞られるような、深淵に吸い込まれるような黒い恐怖です。

この地に留まり、自分の命、健康、財産などが大きく損なわれる危険があるのに、それに抗うこともせず、ありきたりの日常を過ごす振りをする。他人のための活動がとても無意味に思われ、倦み疲れます。

全てが疎ましく、さらに激しい破滅が全ての人々に降りかかることを願う呪詛に囚われることがあります。

そうして、私は、自ら、自分に対する信頼や、誇りを少しずつ侵食してゆくのです。

先月、法事があり札幌の実家へ帰ったときのことです。私の父を含め早死にの家系だねということを母に話しましたところ、「早死にした言い訳はできないんだからね。不摂生のせいなんだからね」と言われました。

母自身の癌が発覚したときには「気をつけていたのになんで私が」と泣いていたくせに。

古老の智恵など今は望むべくもないのでしょう。有り余った時間をテレビに費やし、これが健康に悪いあれが健康に良いと刷り込まれ、自分が生きてきた人生の中から見出した実感を持てる智恵というものがことごとく破壊されているのでしょう。

大気圏内核実験の洗礼を受けたのが私の父母の世代とその子供である私たちの世代。私が小さいころには帽子を被らずに雨に当たると禿ると脅されていたのです。チェルノブイリ事故の時にはこの日本でも、癌が増え二人に一人が癌になるという予測があったかと記憶しております。そしてそれは予想どおり成就し、二人に一人が癌になり、死因のトップが癌となり、三人に一人が癌で亡くなるという現在ですが、その原因は高齢化だということになっています。

高校時代、大学時代の友人の半数は結婚していません。そして結婚した半数には子供がいません。私にも子供はいません。私の世代は総数が少なく人口ピラミッドの大きなくびれに当り、尚且つ大変子供ができにくいようです。

大気圏核実験、チェルノブイリ、福島原発大爆発。私を含めた上の世代は核のトリプルパンチを受けたのかもしれません。

今年は3年毎に行なわれる「患者調査」の年ですが宮城県の一部と福島県が除外されることが決まっているそうです。今年の原発大爆発後の健康への影響は、統計資料として残ることはありません。

こども、こどもと言っている間に実は大人がとんでもないことになっているのかもしれません。

「早死にした言い訳はできないんだからね。不摂生のせいなんだからね」という母のセリフは、私の命の終わりを手っ取り早く、簡便に説明する理由付けとして利用されるのでしょう。

私の父は57歳で亡くなりました。あと7年か、とぼんやりと考えます。

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