原発事故被災者手記
馨(けい)の放射戦記

4人の子供と母親の原発事故との戦いの記録

2012/04/05

10.忘れないで、今この瞬間も被曝し続ける人々がいることを

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ずっとあの震災当初を思い出しながら書いておりましたが、結構気力が要ります。言いたい事が山ほどあるのに、専門家でもないから尚更ですが、それでも声をあげることが自分の責任だと言い聞かせて今まできました。福島にいれば毎日が問題だらけですから毎日声をあげなければ間に合いません。

今までどこまでの情報が確実で、どこまでが信用できるのかも、個人個人判断が違って、もちろん専門家も違って、素人判断でもたくさんの人達が見解を述べていますが、そもそもこんな状況なのは決定事項を守らず、低線量の被曝を考慮に入れない国の進め方に問題があるから故のことです。

たくさんの専門家の意見や過去の経験から生み出す放射線の考え方は、その考える人の職種の違いや医療現場に携わる目から見てもまた変わり、素人が全部のデータを拾って見解を述べるようなブログも多々見受けられ、正直言って、「専門家っていったい誰?」と思うぐらい高レベルな会話になっています。素人なのにです。今の時代は何でも情報が入りますから、すごいことです。

しかし今この状況の中、大人達が頑張って勉強しているこの一瞬も、今までにない放射線を浴びながら生活している人々がたくさんいるのです。忘れないで下さい。

今までにない初めての出来事かもしれない、チェルノブイリやスリーマイルや広島や長崎、アメリカの核実験など、様々な事故と容易には比較できない部分だってたくさんあります。

条件がすべて一緒でなければ比較ができないことは当然のことで、それに対して大丈夫だとか、大丈夫じゃないとか、何ベクレルだからとか、何マイクロだからとか、電卓で叩いたところで、今この現状の被曝を減らすことはできません。

避難指示もないまま福島県中通りは今も普通に生活しています。福島県外でも高い地域はあるのですが、それぞれの人が、それぞれの認識でなんとなく「大丈夫だろう」「やばいだろう」と思いながら生きています。

大丈夫だと思う人は福島産を普通に食べて子供も普通に育てています。心配な人は出来る限り、高くても県外産の野菜を買い、水を買い、マスクをし、保養に出たり、少しでも被曝を減らそうと努力をしています。福島にいると心配で、少しでも線量を下げようと、行政から除染費用が出るからと、自ら必死で子供が通う通学路を除染します。本当ならば放射性物質を含んだものを処理するのは素人がやってはいけないのにもかかわらずガンガンやっています

その基準も私達素人には何も教えずにお金だけ渡して「後は自分でやってください」で行政は終わりです。

今となっては市民放射能測定所が出来て、行政やいろんな機関でも、お金を払って放射能測定を出来るようになりましたが、一つ一つの野菜とかよりも、一食分でどれぐらいのセシウムがあるかを測定するようになりました。しかしながらこれも、その時の、その測定したものだけの数値であって、では次の日の食事はどうなのか、その次の日の食事はどうなのかは、これまた毎日測定してみなければわかりません。このやり方は、放射線がもういつの間にか当たり前に存在し、それを私達は知らず知らずのうちに受け入れてしまった状況になりつつあるのだということを、ごく一部の人しか気付いていません。まんまとその流れに乗ってしまっているのです。

先日、震災から1年経ち、東京電力から23年12月31日までに関しての賠償がありました。福島県は浜通り、中通り、会津、県南に区切り、それぞれ細かく条件があり、賠償金も違いました。避難区域は今まで月々の賠償がされていましたが、帰還困難な住民に対してはまとまったお金が必要との判断で一人当たり600万、居住制限区域、避難準備区域はまた金額を下げた賠償、中通りは子ども一人につき40万(妊婦も含む)、一日でも避難した経緯がある場合20万上乗せ、大人が8万、県南や会津はその半分といったような、到底誰もが納得しがたいものでした。

彼らはきめ細やかな対応だと思っているのかもしれませんが、どれだけ国民を馬鹿にしたら気が済むのだろうと本当に思いました。

原発で作業する人や近くに住む人々は、危険性をよくご存知で、その人達は原発を近くに建てることをお金で解決させられてきました。それは今も尚続いているということになりますが、結局はもうそれしか方法がないのです。

今現在、稼動している原発はわずか1基です。日本には54基の原発があります。ほとんどの原発が止まった状態なのにもかかわらず、私達は普通に生活しています。これはいったいどういうことか、お分かりですよね。

単純に原発がなくても何とかなっているということですが、でも国は何とか理由をつけて、原発を再稼動しようと力を入れているのです。それは国の経済のため、核を存続するため、利権のため。避難させられた人達のことを思えば、冗談じゃありません。原発が絶対安全だと、どこの誰が言い切れるのでしょうか。また想定外の自然災害が起こり、また福島のようにどこかの原発がやられる可能性は十分にあるのです。

さらにです。瓦礫瓦礫のこの騒ぎ。震災で原発事故も関わった瓦礫は、むしろ岩手も宮城も一括りに捕らえるべきことでしょう。放射性物質の拡散は今更誰しもわかっていることで福島だけではないわけだし、ずっと海に垂れ流しっぱなしなのに、どこの誰が受け入れるのでしょうか。海は繋がってるんです。

現実、瓦礫はそれぞれの地域で処理しようとしているのです。それなのに政治家達はその意見を無視し、県外に受け入れてくれと必死です。誰かが環境省に問い合わせたところ、「断られることも考えて全国にお願いしている」とのこと、本当に馬鹿としか言いようがありません。

政治家は瓦礫を受け入れて応援になると本気で思ってなどいません。ただ被曝を誤魔化す方法をとにかく繰り返し、消費税率を上げるとか、国民全員の潜在意識の中に出来るだけほかの事柄を入れて、だんだんフェードアウトすることを願っているのです。もう収束したのだという雰囲気にしたくて仕方がないのです。野田総理も世界に発表してしまいましたからね。彼らはそれを罪だと全く思っていません。むしろこの課題をやりきれば官僚冥利に尽きると細野大臣は言い切りました。

被曝や放射能に対する怖さを忘れさせようと必死なのもわからなくもありません。パニックを起こさないよう、正しい怖がり方を、昨年学校でも、いろんな講演会でも聞きました。

しかしながらそれは決して安心させるものではありませんでした。データが無いと言われる100mSv以下は切り捨てて「大丈夫」と専門家が言い切ったあと、飯舘村や川俣町山木屋に強制避難指示が出たことが、さらに不信感を拡大させました。その専門家は福島の県立医大で与えられた仕事に専念しているのかもしれませんが、何年後かに自分はいなくなり将来の福島の子どもに何が起きたとしても彼は痛くもかゆくもありません。

当然、東京電力も、電力会社の体質上、因果関係など絶対に認めないでしょう。

本当にこの山積みの課題をやりきりたいのなら、官僚達も政治家も、今すぐ直ちに福島に行くべきです。そして福島のその現地で、これからのことを考えていくべきです。県民はみんな思っています。福島だけは、未だずっと曇ったままなんですから。

それをやってこそ、「冥利に尽きる」のではないのでしょうか、細野さん。

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